本作は、アクリル絵の具と複数の絵筆、そしてキャンバスナイフを用いて制作した抽象絵画です。
絵の具のチューブから直接キャンバスに絵の具を絞り出す行為の中で、偶然現れた形が、私には「とんぼ」のように見えました。
意図して描かれたとんぼではありません。
むしろ、無意識や感情の揺らぎ、偶然の重なりによって生まれた存在です。
制作当時、私は深く傷つき、感傷的な状態にありました。
けれどその悩みも、宇宙の視点から見れば取るに足らないものなのかもしれない。
そう思ったとき、この偶然の形でしかないとんぼが、どこか可笑しく、愛おしく感じられました。
「絵は所詮ただの絵だ」と思う自分と、
「それでも、確かに深いものがある」と感じてしまう自分。
その矛盾ごと、このキャンバスに封じ込めています。
観る人それぞれの感情や記憶によって、
このとんぼは軽くも、重くも、自由にも見えるはずです。